2010年10月25日

記録その2

長文です。



夫が不在がちどころかまともに家にいる日のほうが少なかった妊娠後期、夫の留守に急に産気づいたら、あるいは容態がおかしくなったらどうしようというのが最大の心配事だった。そんな中で出産までに済ませておかねばならない仕事、産休に入れそうで入れない、ずるずると片付かない仕事の山、家の中の雑事に頭を抱え、身重の体でちびすけと2人向き合わざるを得ないハードなワーキングシングルマザー状態によれよれ、ぼろぼろになり、声を上げて一人涙をこぼしたり息子にわめき散らしたりしている間にあっという間に月が満ちてはまた欠けていった。

嵐は過ぎてこそ振り返ることができるもので渦中にいるときは毎日が無我夢中だったが、気がつけば夫は家に戻り、息子は保育園に通い、机の上に堆く積まれていた仕事の山は片付いて、ラズベリーリーフティーを飲みながらのんびりとキーを叩く薄暗い初冬の静かなひとときすらそこにはある。家の中を掃除し、壁のペンキを塗り替え、家具を整え、新しい服やスタイを縫い、久しくなかった夫と2人での外出、家族3人で買い物をし、公園を歩き、食卓につく、凪のように穏やかな日々。いつも家にいる父親が暫くいなかったせいで、母親べったりになっていた息子が元通りパパ大好きになるまでに充分な時間。当たり前に家で心身を休めることのできる時間。足りなかったものが満たされ、くたくたになったものが回復してゆく時間。

それら全てを与えてくれたのはお腹にいるこの子。
本当に親孝行な優しい子だと思う。
ちびすけがまだ保育園に慣れられずに不安定だったときも、中耳炎を起こして病院に駆け込んだときも、じっとお腹の中で待っていてくれた。

だから、もう「お願い今日だけはまだ出てこないで」なんて言わないから、いつでも好きな時に出てきていいんだよ。何があってもちゃんと迎えに行くからね。ごめんね。君がお腹にいるのにしょっちゅう怒ったり苛々したり泣いたり落ち込んだり疲れを溜め込んだり、食事だけはかろうじて気をつけてたけど、どう考えてもあんまり君に優しい生活してなかったね。君はいつだってびっくりするくらいいい子だったのに、ごめんね。あんまりいいママじゃなくてごめんね。

それでも君に会えるのをずーっとずーっと楽しみに待ってたんだよ。これでもさ。



さて、以下は安定期に入った春の終わりくらいに書いたもの。



子どもを含めた立ち会い出産を考えている。

今回も夫に立ち会ってほしいが、出産の際にちびすけ一人を蚊帳の外に置きたくはなく、さらに実家に子どもを預けるという選択肢が無い以上、夫が彼を連れて分娩室に来てくれないと夫が生まれたての子の顔を見られないので。

で、ちびすけに「あのね、秋になったらちびびがママのお腹から出てくるけど、出てくるところ見たい?」と訊ねたら、今まで見たこともないほど固く張り詰めた顔で「見ない!見ないよ!」と拒まれた。本能的に怖いのだと思う、多分。

夜中でも駆けつけてくれてちびすけの面倒を見てくれるベビーシッターさんを確保するか。もしくは私が一人で出産に臨むか。帝王切開一歩手前で(もっと苦しかった人はいくらでもいるとはいえ)安産とは言い難かった前回、痛みにも増して「こんなにも痛いのにお産が全っ然進まない、先が見えない」ことの恐怖にのたうちまわったことを考えるとそれは心許ないなあ。

余話。
お産のことを詳しく説明せずに「母子ともに健康」と伝えると自動的に安産だったと理解されるみたいで、実際にそういうケースも多いのだろうけれど、詳細を知らない人に「前回も安産だったっていうし今回も大丈夫でしょ」みたいなことを言われるのってものすごく嫌。痛みは、恐怖は、相対化できないんだよ。あの痛みと恐怖に耐えられるのなら麻酔なしで盲腸の手術が受けられるなあ、と本気で思う。だって盲腸の手術だったら盲腸切り取るところまで耐えたら終わるじゃん!



と、余話含め数ヶ月前に書いたのはここまで。
親バカ以外の何物でもないのかもしれないけれど、10ヶ月も一緒にいると子との間に信頼感みたいなものが生まれるらしく、心持ちは「うちのちびびはきっとそんなに変なタイミングでは出てこないだろうし、いつその時が来ても私はそこそこきちんとやってのけられるだろう」というそれなりに腹の据わったものへと変わりつつある。喜んで、とまではいかないがいざとなれば一人で産みに行く覚悟はあるし、ここまで家族みんなの気持ちを汲んでくれた子だもの、私や夫やちびすけが困り果ててしまうような産まれかたはしないんじゃないかなあ。たぶん。何があっても取り乱さないで済むだけの気持ちの余裕を与えてくれたのは他ならぬお腹の中のこの子なのだし。ちびすけだって私のお腹が大きくなるにつれて「もうすぐ家に自分より小さい人がやってくる」という事実を少しずつ少しずつ彼なりに咀嚼して受け入れてきたように思える。ふんぞりかえって小さなぺたんこのお腹を突き出しては「ちびちゃんもおなかにあかちゃんいるの、いまうごいてるよ、さわってみる?」という息子。夜は母のお腹をまくってはそっと撫でたり、眺めてみたり、「あったかいねえ」とつぶやいて眠りに落ちる息子。体のあちこちが痛くて呻いていると「だいじょうぶ?どこがいたいの?おくすりのむ?いたいのとんでけーする?ばんそうこうは?」と涙が出るくらい甲斐甲斐しい息子。



こうしている間にも時折下腹がぎゅうっと絞られるように強張る。
3人家族の生活も、あと、ちょっと。
posted by YUKINO MATOI at 18:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月22日

記録その1

つわり中に書いたまま放置していた日記が出てきたので2度目の妊婦生活の記録として。3〜4月頃のもの。



ちびすけの時はいわゆる食べづわりで、お腹が空くと気持ち悪くなっていたので、パックのジュースやヨーグルト、ビスケット、チョコレート、パン、なんでも持ち歩いてこまめにちびちび食べていれば割と元気だったのに、今回はかなり食欲が落ちている上、何時、何故、どのタイミングで具合が悪くなるのかが読めない。今なら焼肉でもロースカツでも食べられると思う時もあれば、ひりひりに喉が渇いているのに水を口に含むのすらつらい時も。でも大概は朝と夕方が気分が悪く、昼から午後にかけては比較的元気なので、げっそり体重が落ちることもなくのそのそと暮らしている。(後日注:実際には2kgしか落ちなかったので大したことないと思っていましたが傍目にはかなりやつれて見えていたのだそうです)



漬け物とインスタントラーメンの匂い以外特に受け付けないものがなかった前回に比べて食べられなくなったものがあまりにも多いので書き出してみる。

コーヒー
チョコレート
シナモン、クローブ、甘味と合わさった生姜
あんこ
かつお、サバのだし(いりこは平気、かつおもおかかの状態なら大丈夫)
パン
納豆
もち
揚げ物、炒め物の匂い(完成品を食べるだけなら少量は平気)

普段なら大好きなはずのねっとりまったり濃厚に甘いものがダメになり、ついでに粘度の高いもの、もっちりしたもの、逆に水分の少ない口当たりのもそもそするものも受け付けなくなった。視覚・触覚も少なからず影響されているようで、水回りの掃除の時に手に触れるぬるりとした感触、あるいはうっかり見つけてしまった黴などまあ普段からあまり好ましくはないのだが一々ぎゃあぎゃあ言うほどでもない不快なものたちが猛烈な鳥肌と吐き気を連れてくることに驚く。前回は初めての妊娠ということもあってコーヒーお茶アルコール等々の嗜好品を断つのには結構な努力が要り、ノンカフェインコーヒーやノンアルコールビールで紛らわしていたのが、その必要もないほどコーヒーの匂いもだめなら酒気もだめになった。

で、大丈夫なもの。

コリアンダー
ナンプラー
キムチ
にら
ニンニク
生姜
ごま油
味噌
豆腐
ひき肉
くだもの全部
ヨーグルト
オレンジミルク
牛豚鶏骨系の白濁スープ

さっぱりして酸味のあるマイルドな辛さのものがすごく美味しい。トムヤムクン、フォーにナンプラーと唐辛子とライムを絞ったの、片栗粉を入れないでさらさらに作った麻婆豆腐。キムチも食べたくて食べたくてしょうがなくて漬けたのだけれど、食べる時のニンニクの匂いは美味しくても後に残る匂いにはなぜか気分悪くなったりして諸刃の剣。あとはお茶漬けやコーンフレークのように、とにかくサラサラして口当たりのいいもの。



しかしこんなに何もかも長男と違うと言うことはもしかして女子かしらん。(後日注:と思っていたらどうも男の子のようです)
posted by YUKINO MATOI at 15:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

不可視カウントダウン

夜、子と眠りにつくたび、ぺたりと母のお腹にはりついて寝入る息子の寝息を聞くたび、この子一人のためだけのママでいられるのはあと何日かしらと思う。3人の夜。一応床に就いてから朝までまとめて眠ることができて、2時間おきに起きなくてもいい夜。朝起きるたび、ああ昨日も陣痛は来なかった、さて今日は何が出来るかなと思う。早く来てほしいような、もう少しこのままでいたいような。



とにかく引っ越してしまわねば、新居に全部荷物を入れて最低限住処としての体裁を整えねば、でどうにか「済んだ」と言える状態になったと思ったらあれよあれよという間に出てきてしまった長男。予定の1ヶ月以上前からキリキリと前駆陣痛で母を悩ませ、ああこの子もさっさと出てくるんだろうなあと思いきや、意外に予定日まであと5日、というところまで来て、案外11月生まれになったりするのではという気さえ起こさせる2人目。違う人間が入っているのだからお産もその都度違うのが当たり前、5人産んで5人とも1回1回全部違ったと言う義母の言葉は説得力満載。



陣痛が来てキャンセルになったらごめんね、といいながら友達と会う約束をして、予定通りに会えることへのじわじわとした驚き。大豆を煮ようと水に漬けつつ、1時間後に陣痛が来ちゃったらこの豆どうしようとふと心許なくなり、翌朝何事も起こらなくて無事鍋を火にかけるに到るこの感じ。少しでも時間がかかることは最後までできない可能性がある。来週の予定なんてあってないようなものだと守れる見込みのない約束のような気すらしながら立てた予定の通りにことが運ぶ。「いつも通りの明日」がもしかして来ないかもしれないと思いながら書いたメモの一つ一つを、用事が片付いて屑籠に放り込むたび感慨深い。結局毎日が普通に進行してゆく不思議さ。1時間後なのか明日なのか来月なのか、まさかとは思うけどその日が来ないなんてことありはしないだろうかとちらちら不安もよぎりつつ、確かに近づいたという手応えを感じる「その日」。



毎日なにかしら出産の絡む夢を見る。昨日は夢の中でもう分娩室にいて、助産師さんの指示でせっせと体操やら呼吸やら陣痛を逃がしていて、もう間もなく頭が出ますよーというところまで来ていたので、夜中に目が覚めて真っ暗な寝室で普通に家族が隣に寝ているのにものすごく戸惑った。



父親は生まれてきて抱くまで実感ないとか言うけど、母親だってお腹の中に抱えて誰よりも近くにいるくせに触れないし抱けないし声も聴けなければ匂いも嗅げないのだもの、確かな胎動を心底愛おしく思いながらもやっぱり、肌を合わせて顔を見てやっと「はじめまして」って感じだと思う。
posted by YUKINO MATOI at 14:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月04日

ご無沙汰しています

なにから書けばいいのかわからないまま気づけば10月。Twitterを始めると大概の人はブログが留守がちになると聞いてはいたがその通りですね。加えてうちの6年もののiBookは既にインターネットの世界から三行半を突きつけられかけている存在なので、ダイヤルアップと見まごうほどのその鈍重さに更新の手も鈍りまくりでした。さらに8月9月は夫が猛烈に忙しく、普通に出かけて夜には帰宅出来るはずの日ですら息子に「パパ、らいしゅうまでかえってこないんでしょ?」と見送られるほど出張出張出張で全然家にいなかったこともありまして、140文字を越える文章が全然書けませなんだ。



ドイツ生活7年目に突入した近況。



9月から息子が保育園に通っています。最初の数日間は着いて靴を履き替えるなり親の方を振り返りもせずに遊びにすっとんで行っていたので、まあ頼もしいことよと後ろ姿を見送っていたのですが、「自分はドイツ語を話せない、周囲の人は誰も日本語を解せない」という事実に遅れて気づいて以来、遅ればせながら家を出るのを泣いて嫌がったり渋ったりするようになりました。これまで息子を取り巻く人間は日本語話者か日本語がわからなくても息子の話をニコニコ笑って聞いてくれる人だけだったので、そのどちらでもない人たちの中に心の準備をする間もなく突然放り込まれた不安は想像するだに胸が痛むし、1ヶ月経った今でも不安の種は尽きないけれども、そこは子どもの逞しさしなやかさででおそろしい早さで言葉を吸収し新しい世界に馴染み始めているのはまぶしい限り。早速保育園で風邪をもらってきたせいもあって時折ぐすぐずと「ほいくえんいかない」と甘えたがりますが、言葉が通じないながらも友達もできて、一旦登園してしまいさえすれば給食を5回もお替わりする強靭さで過ごしているらしい。ちなみによく聞く話ではありますが蒙古斑はやっぱり「家で強く打ったんですか?」と聞かれました。



そんな中、昨日は日本人親子会の運動会が開催されたのですが、集団行動が大嫌いなのはここでも健在、というか嫌なものを拒んで実力行使に出る力が段違いにアップしているだけに、全力で泣かれ、逃げられ、暴れられすると臨月の母にはもうなす術がなく、のたのたと右往左往するのみ。家に帰りたい、さもなくばせめて隣の公園で遊んでいたいと聞かないので、皆の歓声を遠目に見ながら砂場のベンチで文字通り砂を噛むがごときお弁当。会場付近に近づくことすら頑に拒否したので半日ただただ遊ぶばかりで集合写真にすら参加できず、運動会の解散頃にかろうじて荷物を取りに戻り、挨拶をし、とぼとぼ、めそめそと、息子は遊び疲れてぐずぐずぐったりと、帰路につきました。

他の子は楽しくて仕方がない様子なので「どうして泣いてるの?」「何が気に入らないの?」「どうして運動会が嫌いなの?」と大人からも子どもからも聞かれるの、私も息子もしんどかった。そんなことはこっちが聞きたい。そしてむしろ私のほうが泣きたい。以前も書いたけどこの子は1対1もしくは少人数で楽しく過ごすことはできても集団行動がほんとうにほんとうにほんとーーーうに苦手らしいのだ。家に帰って眠りについてもうなされて「いかないよ、いかないよう、おうちかえるのー」と暴れ出してしまうくらいに。

これはもうこういう子なんだと思って気長に付き合うほかないと腹をくくるも、どうにも行き場のない淋しさは残ります。親の勝手な期待に過ぎないとはいえ、道一本隔てた向こうで息子のいない運動会を眺めながら過ごす日曜日はこれまで味わったことのないくらいしょっぱい味がしました。



中の人はもういつ出てきてもおかしくない感じなのでそのへんはまた今度書きます。
posted by YUKINO MATOI at 19:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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