2008年04月21日

寝息の合間に

子と過ごしつつ読める適切な本をあまり持っていないので
こういうときこそ日頃の守備範囲内にない本を読むべきだろう、と
キティの蔵書の中からたまたま目に付いた木村元彦『オシムの言葉』を読んでいます。

フットボールプレイヤーはフットボールプレイヤーとしてのみ
評価され、支持され、あるいは批判されるべきであり
それ以外の要素がゲームの場に介入しようとすることを
毅然と拒み続けた稀代の名将。

いかなる民族的出自を持つか、ただそれだけが
いとも簡単にその人の生死を左右し得たあの時代のバルカン半島にあって
旧ユーゴスラヴィア連邦を構成していたどの国の人間にも
「オシムこそが最高の監督だった」と言わしめることが
監督として、1人の人間として、どれだけ困難であったことか。
門外漢の私ですら、ただ頭を垂れるよりほかない深い敬意を覚えます。

ドイツが東西に分かれていた最後のワールドカップであり
ソ連がソ連として最後に参加したワールドカップであり
オシムがユーゴ代表監督として采配を振るった最後の国際大会である
1990年イタリアワールドカップのビデオを
キティが出してきてくれたので合わせて観ました。

有史以来、人が惨劇とまるで無縁でいられた時代などない以上は
痛ましい記憶、悲劇の記憶とともに刻まれるしかなかった祭典の数々は
スポーツ史上を辿れば枚挙に暇がなく
ならばむしろ、ワールドカップなりオリンピックなり、そういった祝祭は
その賑々しく華やかな舞台の背景にある
本来スポーツとは無縁であるべきはずのもの
それに思いを馳せるための逆説的な装置として機能すべき場なのではないか
などと言ったら怒る人もいっぱいいるんだろうなあ、と
徒然キーをパンチしていたら子が泣き出しました。わわわ。
posted by YUKINO MATOI at 03:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月19日

私的経験論

実体験に勝るものなし、ということの真実を強く強く肯定しつつも
実体験の有無のみで思考や言動が限定されることに同じくらい強く反発します。

正確に言うと、当事者でない、ただそれだけの理由で
「○○したことのない人にはわかるまい」だの
「本当の●●を知らない人にそんなことを言って欲しくない」だのと
簡単に人を締め出すような態度が好きではない。

よく考えもせずに「自分は××ではないから」と安易に投げ出してしまうこともまた
浅薄な共感や理解した「つもり」と同じくらいに、受け容れがたい。

当事者以外の人間には慮るよすがすらないことが世の中にはいくらでもあり
当事者以外の人間がそうやすやすと同じ境地に辿り着けるはずもないのですが
冗談めかして、互いに笑って話せるような他愛ないことについてならばいざ知らず
そうでないならば経験の有無だけで簡単にそこに境界線を引いてしまいたくはないのです。
締め出す側にとっても締め出される側にとっても、それは一種の怠慢ではないだろうかと。



自分が当事者であるならば、それに甘えないこと、拠りかからないこと。
自分が当事者でないならば、それを言い訳にしないこと。

当事者になったことがあるからこその
そっと寄り添うようにじんわりと暖かい言葉をくれた友もいれば
当事者には今のところ決してなり得ないながら
(なにしろその人は男性で、結婚する気も父親になる気も全くないようなので)
はっとするほど的確で、かつ彼らしい思いやりに溢れたエールをくれる友もいて
なおのこと、そう思ったのです。
posted by YUKINO MATOI at 23:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 考え事の記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月16日

81.3

ふいに昔バイトしていたアトリエが懐かしくなった。
正確に言うとアトリエでいつでもつけっぱなしになっていたJ-WAVEが。
そちらに気をとられすぎずに楽しめるささやかな娯楽で
時計代わりで、単調な作業の気晴らしで、好きな人たちがたくさん出ていて
その頃からテレビも新聞もほとんど見なくなっていた私の貴重な情報源で
話し相手もなくゴトゴトと気難しいミシンを踏みつづけた夜や
気の進まない作業をとにかくやっつけなければならない雨の日の午後など
あれで随分気がまぎれたよなあ、と思い返す。

アトリエ自体は塗料の飛沫やら有機溶剤の匂いやら
発泡スチロールの粉塵やら埃やらで満たされた空間なので
子を持つ今の身ではとてもとても足を向けたくはないところなのだけど
前回書いたように一度距離を置いてしまえば
あらゆることが笑顔で一緒に思い出せるようになるものなのです。




キティが出かけてしまうと
子と2人きりで過ごす時間の流れはあまりにも静かで
秒針がこちこちと進むのをただぼんやりと眺めるしかないような
日に何度か訪れる、穏やかに拘束された退屈さに飽いて
普段だったらまず手を伸ばさないような音源を引っ張り出して
とっかえひっかえ聴いていたら
その頃によくJ-WAVEでかかっていた曲がいくつも流れ出してきて
ああ、今ここで毎日J-WAVEが聴けたらなあ、と心から思ったのです。

子が延々ぐずり続けようと、深夜2時間おきに起こされようと
朝から晩まで一日中あれが聴けたらもっと楽しくって
世の中と切り離されて引き籠っている気分が薄れていいのになあ!と。



ところで。そんな予感は薄々していたんですが
菊地ダブはやっぱりフジロック出るんですね。ははは。
PRIMAL SCREAMも来るし清志郎も出るしな。
posted by YUKINO MATOI at 15:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月15日

緩やかな急流に飲まれるように

あっという間の4週目です。来週でもう1ヶ月ですよ。



・子に振り回されつつも毎日の成長振りが面白くて面白くてたまらず
 新しい遊び友達が増えた子どものように
 キティと2人、きゃあきゃあと昼夜なく過ごす合宿所のような日々編

・出産するやたちまち自分とそれを取り巻く環境とが
 凄まじい勢いで変わり果ててしまったことを受け容れ切れずに
 マタニティーブルーをやり過ごしながら狼狽しつつ過ごす鬱々な日々編

・家事も雑事も育児の分担も夫が万事引き受けてくれるので
 子と一緒に三食昼寝おやつ付きの生活をのらりくらりと楽しみつつ
 あっさり出産前の体重を取り戻したことにほくそ笑む日々編

・たった数週間前まで胎内にいた子が今や外の世界の住人となり
 自分の肺で呼吸し、自分の口を使って栄養を摂取し
 自分の五感全部を使って世界を見て
 素晴らしい勢いで育ってゆく様に胸打たれる感動の日々編

適当に思いつくままざっと書きましたが
子と暮らし始めてからの日々を表現するとして
嘘も誇張も脚色もせずにあと4〜5パターンはレポートが書けるだろう
(それも相当に細かくねちっこく)というくらいに全部ほんとうなのです。

それこそ急流に放り込まれた木っ端のように
ゆらゆらと定まらない心持で息子と付き合い続けてきましたが
始まってすぐの、糸口がどうにもこうにもつかめずに
ひたすらあがくしかなかった時期はどうにか脱したみたい。
実母はじめ母親業の先輩各位からの助言には本当に救われました。



痛く苦しく辛いことのみが刻まれた記憶はそのまま残るしかないけれど
正の感情と負の感情が分かちがたく張り合わされた記憶は
時とともに良かったことだけがより強く思い起こされるようになり
悪かったことは口当たり良く正のオブラートで包まれて
適度に甘苦く蘇らせることができるようになっているのが
人間の脳の逞しくも都合良く出来たところだなあ、としみじみ思うのです。

歯の根の合わなくなるほど怖くて痛かった産みの苦しみも
泣き続ける子を抱えてふらふらの頭で途方に暮れた明け方のことも
全部帳尻を合わせて余りあるほどに子の力は絶大なのです。

記憶がマイルドになっただけで、絶対忘れないけどね。
posted by YUKINO MATOI at 06:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月07日

ほらな

IMGA0036.JPG

ファインダー越しに見る顔よりも
平面に焼き付けられた何十枚もの顔よりも
肉眼で見ている「今」の顔がいつだって一番可愛い。
だから実物はこの何倍も可愛いんですよ皆さーん!うふふふふー。

こんな顔を一日に一回でも見てしまったら
そりゃあこの小さな小さな魂が
くるくるとめまぐるしく表情を変える様を一瞬でも逃したくなくて
ずっと傍らに子がいてくれるだけでどうしようもなく嬉しくって
「夜寝れないくらいなんてことないわ!」などと思ってしまうわけですよ。
たった半日で驚くほど表情のヴァリエーションが増えるのですもの。

さすればこそ「こんなに手がかかるのも今のうちだけだろうし」と
現実的な判断も働こうというものです。

私が彼を育む以上に私が彼に育てられているなあ、と思うのです。
posted by YUKINO MATOI at 21:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 写真付き日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月06日

泣き言

母は凄い、母は偉大だ、母は強い、の言葉が
褒め言葉として自らに向けられているとき
それらはいつでも重圧や恐怖に変わり得るのだ、ということを
母の立場になってみて日々思い知らされています。

凄くなんかないし偉大でも強くもなくて
分娩室での出来事だってあんな風に書いたけど
「えーと私が産まないとこいつは出てこないんですよね?
 私がやるしかないんですね?いいですよもうどうにでもなれ」的な
極めてやけっぱちな努力の果てにどうにか辿り着いたようなもので
散々弱音も吐いたし、逃げ出せるものなら逃げ出したかったし
それは子との生活が始まった今でも全然変わっていない。
1日面倒見ててやるからとりあえず12時間くらい寝たら?
といってくれる人がいたら喜んでそうするでしょう。

胸にぺたりと頬を預けて眠りに落ちる体の柔らかさがが
一日のうちのわずかな時間に見せる仕草が
たまらなく愛おしいからこそどうにかやっていけているのであって
楽したいだの休みたいだのと一切思わずにいられるほど
私は逞しくないし、凄くもないのです。
だから、どうか、私を褒めないでください。
でないと「そんな風に強い母になんかなれませんよう!わーん!」って
きっとまた泣いてしまいますから。
posted by YUKINO MATOI at 22:14| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月04日

涙がとまらない

寝返りを打つこともままならないほど
消耗し尽くし痛んでしまった自分の身体におののいては泣き

陣痛がピークに達したあたりから
ドイツ語会話能力がぽっくりと抜け落ちてしまった頭で
人生初の入院生活に突入することになった心細さに苛立って泣き

子が母乳を飲んでくれないといっては泣き
体重が増えず黄疸が治まらないからと泣き

真夜中、大人用のベッドに横たえた子の
あまりの小ささ頼りなさに胸を衝かれて泣き

臍帯がついたままの子を抱き取ったときの
温かくくったりと柔らかな感触を思い出してはまた泣き

あっという間に10日が過ぎました。



予定日より2週間早かったとはいえ
出産の日から数えるとなんと1週間前に引越しを済ませたことになり
夫が八面六臂の奮闘をしてくれたおかげで
旧居の引継ぎも新居で子育てをする体勢も
退院の日までにどうにか整ったわけですが
間に合ったのは多分、子のほうでも外の状況を見計らって
今ならもうこの人たちのところに行っても対応してもらえるだろう、と
様子を伺いつつ出てきてくれたのではないかな、と思う親馬鹿です。
3年間過ごした旧居とお別れする時間も
夫と2人(しばし)最後のカフェを楽しむ時間も
ベビーベッドを組み立てて上から天蓋を吊るす時間も
しっかり残してくれたもんな。

2週間のフライングで既に3300gもあり
難産でした、と言うにはややおこがましいながら
決して安産とは言い難かったあの痛みを思うと
予定日どおりに産まれてきたらどうなっていたことやら。
後で聞かされたことですが、帝王切開の一歩手前だったそうですから。



母の顔になったとよく言われますが実感はありません。
泣いてばかりいるのと面白いほど眠れないのとで
目が奥二重になったまま戻らず、人相が変わったのは確かです。

心も身体も一度全部空っぽになって
ばらばらになったのをもう一度再構築して今生きている感じ。
すぐ涙がとまらなくなるのは破壊と再生の証なのです、きっと。
posted by YUKINO MATOI at 17:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

羽化

愛しの君に会うために病院に行ったのは
月の綺麗なイースターの日曜日。
陣痛の波を聞きながら駐車場をゆっくりと散歩。



怖かった。
本当に怖かった。
痛みや苦しみや恐怖を紛らわせる術が何もなくて
外が白々と明けてくるころ
もう無理だ、いやだようと叫びながら
必死で痛みの奥底にある気配に手を伸ばした。
もうどうなっても構わないから、ただ君の顔が見たかった。



3月24日午前7時51分、まっさらな青空の下に産まれました。
消耗し切った体に点滴を受けて少し眠り
目を覚ましたら外は季節外れの大雪でした。
posted by YUKINO MATOI at 16:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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